残留日本人とベトナム家族に光(会長特別寄稿)

ー両陛下のベトナム訪問に思うー
日本ベトナム友好協会 会長 古田 元夫

今般の天皇・皇后両陛下のベトナムご訪問では、三月二日に行われた、第二次世界大戦後にベトナムに残留し、ベトナムの独立戦争に加わった日本人(新聞等では「残留日本兵」という用語が使われているが、残留者にはごく少数ではあるが軍人ではない民間人もいるので、以下、残留日本人という表現を使用)のベトナム人家族と両陛下との懇談が、大きな注目を集めました。これは、私たち、日本ベトナム友好協会にとっても、たいへん喜ばしい出来事です。
 第二次世界大戦後のベトナムの独立戦争には、数百人という規模の日本人が現地に残留して参加しました。独立直後の、強力な国際的支援者いかなったベトナムにとって、残留日本人のもつ軍事技術や専門知識は、貴重な意味をもっていました。日本人残留者は「新しいベトナム人」と呼ばれ、ベトナム人社会に溶け込み、ベトナム人と結婚して、子供をもうけた人も多くいました。しかし、中華人民共和国の成立以降、社会主義陣営のベトナムに対する支援が本格化する中で、残留日本人の役割は相対的には低下しました。また、社会主義陣営の一員であることを強調するようになったベトナムにとって、旧枢軸国の敗戦国である日本の軍人など協力を得ているということは、公けにはしにくい事項になりました。一九五四年にジュネーヴ協定が成立してインドシナ戦争が終結すると、ベトナム北部にいた残留日本人は日本に帰国することになり、その際、ベトナム人家族との別離がせまられたケースが多く存在しました。
 日本に帰国をした人々の多くは、ベトナムに対する強い思いをもち、一九五五年の日本ベトナム友好協会の結成でも中心的な役割を果たし、その後の日本における友好運動の発展に多大な貢献をしました。友好協会の内部では、旧残留者の人々の存在は、よく知られていましたが、日本社会全体では、知られることが少ない話でした。また当時の国際的状況にせまられたためとはいえ、家族の別離という事態が生じたことは、日本人残留者にとってもベトナムに残された家族にとっても、辛い体験でしたが、こうした日本人残留者、そのベトナム人家族の歩んだ歴史には、大きな光があてられることがありませんでした。
 このような状況の中で、今回の両陛下のベトナムご訪問に際して、残留日本人の現地家族の方々が脚光をあびたことは、友好協会にとっても、日本とベトナムの交流の歴史にとっても、たいへん意義深い出来事でした。日本とベトナムの国民レベルの相互理解と友好の増進をめざす友好協会は、改めて協会自身の原点の一つともいうべき、残留日本人とその家族の歴史を想起し、平和構築への強い思いを新たにしています。

※この記事は日本ベトナム友好協会 機関誌「日本とベトナム」2017年3月15日(732号)に掲載されたものです。